防災情報新聞
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〈大学はいま〉持続型社会へのグランドデザイン――工学院大学に“防災志”あり
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TKK連携プロジェクト「防災・減災・ボランティアを中心とした社会貢献教育の展開」とは

工学院大学外観と新宿新都心遠景

都心型地域防災拠点を志向する工学院大学新宿キャンパ
スの外観(左)と新宿新都心遠景(写真ほぼ中央・右に工
学院大学(以下、写真はいずれもクリックで拡大)

 東北福祉大学、工学院大学、神戸学院大学のTKK(3大学の頭文字より)連携プロジェクト「防災・減災・ボランティアを中心とした社会貢献教育の展開」が昨年(2009年)9月、文部科学省 2009年度「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」に採択された。これを機に3大学は、同プロジェクトの実践を担う「TKK分かち合い連携センター」を東北福祉大学(宮城県)に、「TKK助け合い連携センター」を工学院大学に、「TKK学び合い連携センター」を神戸学院大学(兵庫県)にそれぞれ開設した。
 
 これを受け3大学は本年(2010年)4月から、社会貢献(防災・減災、ボランティア、社会環境)に関する3大学共同の専門カリキュラムに基づいた講義をスタートする。同カリキュラムは、原則として遠隔授業で実施し、学生は他大学の講義を受け単位を取得することができる。また、卒業単位に組み入れられるだけではなく、所定の単位を修得することにより、新たに新設する「社会貢献活動支援士」の受験資格を得ることもできる。
 「社会貢献活動支援士」は、防災・減災、社会貢献や環境の専門的知識と能力を身につけ、災害やボランティアの現場でリーダーシップを取って活動できる人材であることを認定する制度である(現在、資格認定制度策定中)。
 
 地域防災の担い手の高齢化に伴う課題が顕在化するいま、防災・減災・ボランティアを通じた社会貢献のスペシャリスト養成をめざすこうした試みに、わが国の防災界が注目しないわけはない。本紙は、TKK3大学連携と同時に、地域とのコミュニケーションを積極的に図り、学生が連携する地域防災拠点の構築をめざす学生支援プログラム〈いのち・つなぐ・ちから〉」で「防災士」育成などに制度的に取り組み、「工学」という専門分野を通じた社会貢献をめざす“K”、すなわち工学院大学にその背景と展望を探った――
 
               □     □     □     □

工学院大学の防災対応を語る

「防災について大学への社会的要請に応えたい」と久田
嘉章・建築学科教授(写真左上)。村上正浩准教授(写
真右上)は「“連携と学び合い・分かち合い・助け合い”が
いまもっとも求められている」と語る。
(下・写真左より)『学生防災士』の工学院大学工学部建
築学科3年・内山宏和さんと工学部建築学科3年の藤波
昭秀さん

 工学院大学(東京都新宿区・八王子市、水野明哲・学長。学生数:約6600名、付属中高生:1100名、大学所属教職員:約300名)は2年後の2012年に創立125周年を迎える――1887年(明治20年)に工手学校(職人学校)としてわが国の産業の近代化を支える工学系人材を養成する学校として誕生。戦後の1949年、新学制により現在の工学院大学となり、その後も発展を続け、大学キャンパスは東京都新宿区(3、4年生)と同八王子市(1、2年生)に分かれた(一部学部を除く)。89年に超高層ビルが林立する東京都西新宿に落成した新宿キャンパスの高層棟は地上29階・地下6階、高さ143mあり、完成当時は大学専用の建物としては日本一の高層ビルだったという。
 
 工学院大学(新宿キャンパス)のスタイリッシュな高層ビルのたたずまいのせいか、120年を超える歴史と伝統が与える印象は決して重々しいものではない。逆に、テクノロジーの時代とも言われる21世紀に水を得た魚のように構内を行き交う学生たちには、新しい息吹を感じさせる表情が満ちていた。
 新しい息吹とは、工学院大学の最近の“試み=挑戦”に呼応している。工学院大学はいま、新宿キャンパスを都心型地域防災拠点、八王子を郊外型地域防災拠点として、学生・教職員を災害ボランティア勢力とすべく、防災士育成をはじめ、防災・減災をテーマとした社会貢献教育に乗り出している。
 
■助けられる側から助ける側に 社会貢献に立ち上がる大学と学生たち
 
 「工学系の視点での地震災害対策は、基本的には建物を強くすることにあります。しかし現実をみると耐震化がなかなか進まないいっぽうで、人的被害をどう減らすか、負傷者搬送をどうするか、復旧復興をどうするかなど、社会的な要請が強くなっています。そうした課題に応えようというのが本学の防災へのスタンスです」と切り出すのは久田嘉章・建築学科教授。
 「新宿で日中に大規模災害が発生した場合、これまでの大学の対策は、学内にいる多くの学生の安全を図り、『帰らせるか、帰らせないか』でした。しかし、そうした事態を想定するとき、学生は自らのマンパワーや工学の知識を地域の減災のためにもっと積極的に活かせるはずです。また新宿には企業も多く、就業者は膨大な数にのぼる。彼らが救援される側ではなく救援する側に回るならば、新宿エリアの防災・減災力は数段パワーアップします」
 
 そこで工学院大学にとって、新宿という立地環境にあって、学生をボランティアとしてどう組織化するか、企業とどう連携をとるかが、内在する社会貢献資源の掘り起こしに向けた課題となった。

日中両国の若者たちの話し合い

神戸学院大学で本年1月24日に開催されたTKK3大学連携
プロジェクト共催「阪神・淡路大震災と四川大地震からの
教訓」では、中国四川省から8名の学生、また日本国内か
ら10の大学・高校の学生らを招待。日中両国の若者たち
が「震災経験」を“つなぐ”方法を考え、若者が果たすべ
き役割を話し合った(写真提供:工学院大学・TKK助け合
い連携センター)

 「せっかく工学の知識を持ちながら社会学系が弱点で、ボランティアとして組織化できず防災訓練のお手伝いをするくらいだった。そんなとき、東北福祉大学や神戸学院大学と接触する機会があって、彼らには工学系の知識はないがボランティアの育成を長く実践してる、工学院大学は工学に強くてボランティアに弱い。それなら社会貢献教育を共同事業として、それぞれを補う共同カリキュラムをつくろうということになり、TKK3大学連携構想が生まれました」
 
 工学院大学は、地震動予測やリスク評価、耐震・制震補強対策などハード対策の研究で高い評価を得るいっぽう、大学として緊急時対応マニュアルを策定するなどソフト対策も拡充させ、さらに地域メンバーとして地域防災活動に力を入れている。また震災時に備えた新宿と八王子を結ぶ長距離無線LANネットワーク網で災害情報や安否確認情報を発信する体制も構築している。
 こうした同大学の研究成果の実践例として知られるのが、東京都と新宿区による「新宿駅周辺滞留者対策訓練」での地域協働による災害時対応の役割だ。都による首都直下地震の被害想定では、発災直後の主要なターミナル駅は約10〜20万人の滞留者で混乱するとされる。最終的に帰宅できない帰宅困難者数は東京駅が約14万人、渋谷駅が約10万人、新宿駅や品川駅がそれぞれ約9万人だ。
 工学院大学は、新宿駅周辺の滞留者・要援護者の避難誘導・受入れ、傷病者対応、災害情報受発信拠点として重要な役割を果たすことが期待されている。
 
 工学院大学の防災プロジェクトを指導するのは、村上正浩・建築学科准教授。八王子キャンパスのある八王子市都市計画審議会の委員も務める。
 「新宿キャンパスと八王子キャンパスでそれぞれ、地域の方がたと連携して防災プランづくりを試みています。とくに新宿の場合は企業が多く、日中は企業の従業員と学生が圧倒的に多いから、それをどう組織化して地域で助け合うか、その取り組みを展開中です。
 また、八王子市の場合、私は市の都市計画審議会のメンバーとして意見することがありますが、都市計画(ハード)と防災(ソフト)をどうリンクさせるかという課題にも取り組んでいます。ハード機能を有効に活かすには、ソフトを有効に組み込まないといけない。たとえば消火栓の設置場所や避難経路の想定にしても、防災というソフト面を組み込むことなしには機能が活かされているとは言えません。ハードが安全に見えても、使ってみると安全ではないということが多々あります」

「新都心での多文化共生と震災対策」

工学院大学による「新都心の地域減災シ
ンポジウム」と冠するセミナー・シリーズ
のひとつ。新宿をモデルとして施設管理
者・防災管理者を対象に、地域の幅広
い立場の人びとと“顔の見えるネットワー
ク”を構築し、地域連携型の減災対策に
取り組むための具体的なノウハウを養う
ことを目的とする

■「いのち・つなぐ・ちから」――若者よ、地域社会をめざせ
 
 このように地域と連携した新しい防災・学生支援の取り組みを展開する工学院大学は、「学生支援プログラム〈いのち・つなぐ・ちから〉」で、学生の視点に立った独自の工夫や努力を主体とする取り組みを選定し、財政支援を行っている。たとえば「防災マップ」や「学内点検マニュアル」づくり、学生自治会主催の「普通救命講習会」の開催、「リーダーズキャンプ」の開催などが支援対象となる。
 そのひとつに『防災士資格の取得』がある。『防災士』研修講座への学生派遣とその資格取得は、地域社会で実践的な防災リーダーとなることをめざす学生に向けた支援事業で、2010年1月末現在4名の防災士を養成、今後も、同プログラムを通じて学生防災士を育成する方針だ。
 
 そうした『学生防災士』の一人、同大学工学部建築学科3年・内山宏和さんは――
 「建設現場での事故の防止がまず防災のイメージにあり、防災士資格に関心を持ちました。防災士研修では自然災害の幅広い知識を学びました。また、避難所運営の演習(DIG)で、社会人のみなさんと意見を交換して、教えられることが多かった半面、大人には自分の経験や考え方への固執や決めつけもあると感じました。また、外国人への対応の仕方については考えたことがなかったので参考になりました。私は中学校の教員を志望していますが、子ともたちの考え方に幅を持たせるような指導をしたいと思います」と語ってくれた。
 
 また、工学部建築学科3年の藤波昭秀さんは――
 「いま就職活動中で建築分野を志望しています。研究室の防災プロジェクトで防災士のことを知りました。防災士研修では私も避難所演習が印象に残ります。高齢者や病人などへの対応がむずかしいだけに参考になりました。演習で工学の知識を活かす機会はありませんでしたが、避難所運営では工学系の知識や発想も活かせることが多いのではないかと思います」
 
 若い防災士にはぜひ、学んだ専門性を防災士の志で磨き上げて地域社会に飛び出してほしい。学生防災士にとっては防災を通じた“総合的な専門性”が就職活動に資するとともに、社会人として成長するための触媒となるはずだ。防災を学び、ボランティア活動を実践した経験は自らの学びの専門性に厚みを加え、個性発現となり、実践的には自己PRの素材となる。
 
 村上先生は、防災と大学の専攻・専門性については次のような見方を述べている。
 「もともと防災は学際分野。文系の人間ができることがあれば、経済の人間にもできることがある、構造的なハードでできること、建築(ソフトだと言えますが)でできること、それらが横につながらないと、本当の意味で防災は実現できない。建築は幅広い分野ですが、防災となるともっと広いのでみんなが一緒になってやらないとできません。
 今回のTKK連携プロジェクトはそういう意味でも学際的です。外から見ればハード・ソフト対策どちらでもいいと思いますが、内側に入って防災を動かしていこうとすると、お互いが連携し勉強し合わないと解決できない。そうしたことを通じて社会貢献というかたちに入っていくということが、大きな特徴をなしているのではないでしょうか。“連携と学び合い・分かち合い・助け合い”がいま、もっとも求められていると思います」
 
               □     □     □     □
 
 工学院大学が掲げる「理念」にはこうある――
 「今、人類は大きな課題に直面しています。それは限られた資源、エネルギーの浪費をおさえ、地球の環境と生き物の命を守り、人類の安全と福祉を保障し生存を続けることができる『持続型社会』をめざすことです。このために科学技術が果たす役割は無限に広がります。21世紀の工学院大学は、これまでの実績をもとに、幅広い基礎研究を土台として、『持続型社会をささえる科学技術』の発展のために積極的にとりくみ、提案していきます」
 
 地域社会を足場に持続型社会を、持続型人類・持続型世界を想像・設計し、その推進に向けたパワーを出力する――工学系の学びはグランドデザイン(壮大な着想)を描く力も与えてくれる。
 
▼記事関連リンク:
工学院大学
東北福祉大学
神戸学院大学
TKK3大学連携プロジェクト「防災・減災・ボランティアを中心とした社会貢献教育の展開」
 
・本紙コンテンツ=「防災士」
・防災士関連リンク=NPO法人日本防災士機構日本防災士会防災士研修センター(研修機関)
 
〈2010.2.23.〉

 
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